ウーマン・村本大輔「マイノリティと言うと、周囲の反応面白い」 難治ガン記者と対談【前編】
AERA dot.で朝日新聞政治部の記者、野上祐さん(46)が連載する『書かずに死ねるか――「難治がん」と闘う記者』というコラムがお笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔さん(37)の目に留まった。村本さんの番組や舞台に出演し、「新聞の価値を考える瞬間があった」と野上さん。お笑い界の異端児と難治がん記者――。2人の交流からみえてくる人生の意義とは?
【2人の対談の様子はこちら】
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――村本さんはAERA dot.のコラムがきっかけで、野上さんに興味を持ったとのことですが、どうやってコラムを見つけたんでしょうか?
村本:僕の周りにがんになった人が多くて、興味があって。それで、“がん”で目に留まって、記事を見て、という感じですかね。去年、AERA dot.に載った「選挙の公約に副作用も書け」「これをやるからこうなると書け」という野上さんのコラムに「あっ」となった。それで昨年、AbemaTVのニュース番組「AbemaPrime」に出てもらったのがきっかけです。
野上:もともと一昨年7月に朝日新聞で書いた記事なんですけど、似たような話をAERA dot.に書いたのをご覧になったのかな、と。
村本:興味がありましたよね。がんになった人というのは、こう、「余命1カ月」「何カ月」とかがあるじゃないですか。闘病とか。僕の周りでがんになった人は野上さんも含め、その中で出てくる言葉とか生き方がキラキラしている人が多い。ちょっと好奇心がありましたね。それで、野上さんに会う前に僕が知り合ったがんの人を全員集めて、AbemaTVで『ウーマンラッシュアワー村本大輔の土曜The NIGHT』というトークをやった。広林(依子)さん、三輪(晴美)さんとか。彼女たちがなったからこそ見えたものについて話し合った。しかし、一番若かった女の子がオンエアまでに亡くなってしまったんですよ。
野上:広林さんですよね。
村本:広林さんは絵を描く人で、儚く、美しく見える感じがあった。
――野上さんが最初AbemaTVで村本さんとご対面されてどんな印象でしたか。
野上:テレビに出てちゃんと喋るのは初めてで緊張もしたんですけど、「芸人はコンプレックスをネタにして活かしていくんだ」という話をされた時に、「確かに自分も今そういう感覚に近いのかな」とうまくスコンと言ってくれたような気がして嬉しかった。「そうですね」って言ったらニヤッと笑われたので、一方的にですけど、「こっちの話が通じたな、いいなぁ」と思いました。
――その後もやり取りはあったんですか?
野上:僕が入院した4月に連絡をいただきました。
村本:AbemaTVのスタッフが「野上さんが死にそうになった」「野上さんが」とよく言うんです。で、ずっと野上さんが頭にあって、記事なんかもたまに拝見したり。野上さんの文章って、怒っているように見えたんですよね。それで僕が舞台でやっている「スタンダップ・コメディー」に出てもらおうと思ったんです。
――スタンダップ・コメディーとは?
村本:アメリカなどのスタンダップ・コメディーというのは「黒人のコメディアンが白人社会に対して怒っている」「女性のコメディアンが男性社会に怒っている」「白人のコメディアンも政治に対して怒っている」などとマイノリティらが権利を主張して、怒りのやり場にコメディーが用いられます。分からないこと、答えのないものに対する怒りのやり場にコメディーを使っているんです。だから、笑わせているようで怒っているように僕は思うんですね。野上さんの記事も怒っているように見えた。それでマイクの前に向けてみたらどうだろうか、と。僕が見てみたいコメディーになるかなと。
野上:鋭いですね。たぶん怒っていました。あまり他人から指摘されたことがなかったんですが、さすがよくご覧になっている。村本さんがフジテレビ「THE MANZAI」でネタをやった時に「すごいな」って思ったのは、中身の社会風刺ネタがすごく斬新だからという注目ももちろんありました。だけど、このネタをやるまでに「ネタとして笑える」という完成度を高めたり、こういうことを扱う時間を持てるようになるまでに結構我慢もされただろうし、努力もされただろうし、色んなことをされてきたんだろうなと思ったんです。コラムの連載をさせてもらっていると、たとえば「がん患者だからこういうことを書いてほしい」という期待を感じることがあるんです。
しかし、翁長(雄志)前沖縄県知事が亡くなった時、(人が死に直面したときに)やりたいことって自分が元々やってきたことだったんだなと。彼だったら沖縄の基地問題だった。僕は政治記者だから政治のことを書きたいのですが、「周りの期待が違う」と鬱々しているところがあった。そんな時、村本さんは自分がやりたいことを枠の中できちんと収めてやってみせたところに、平たく言うと、感動したのかな。
村本:怒っているから書くんですよね。歌う人も絵を描く人もそうです。それがピュアで人の心を動かすんだと思います。野上さんは「がん」で「朝日」です。がんの友だちがいたら気になって読むし、朝日の記事が好きならもちろん読むでしょう。もしかすると、「アンチ朝日」の人も読むかもしれない。でも、「無理やり書かされている」とか変なことを言う人もいるんじゃないですか。
野上:言われますよ。「安倍政権批判のためにこの記者の病気を利用している」とか。
村本:あれ、めちゃくちゃ腹が立ちませんか。
野上:もう、笑っちゃうから、正直言ってそんなに腹は立たないです。ただ、「大丈夫かなこの人は」とは思いますよね。僕より気の毒なんじゃないかな、と。
――野上さんは7月19日にスタンダップ・コメディーに出演されました。マイノリティ的な境遇の素人9人がステージに立ち、野上さんはご自分のことをスケッチブックで説明されたりしていました。楽しかったですか?
野上:もちろん楽しかったです。あのスケッチブックは裏側に「あんちょこ」を貼るために作ろうと思っただけなんで、ものすごく雑な作りでした。前の日にあんちょこを置ける会場だって分かったんで、ほとんど持って行く意味はなくなったけど。スケッチブックを描いたのは配偶者なんです。
村本:前日に来て確認しましたよね。本番の日、そのスケッチブックを見て僕が「へたくそ!」って言ったんです。舞台にいた野上さんには「画伯!」って聞こえたみたいで、AERA dot.のコラムに「画伯!って呼ばれた」って書いてありましたね。「へたくそ!」って言ったんですけど……。
野上:すごい皮肉だなぁと思って。画伯って声も聞こえたんですけど……。いずれにしろ「村本さんが」というのは誤報ですから、記者としては一番恥ずかしい。
――野上さんの舞台をご覧になってどう感じましたか?
村本:野上さんの人柄、性格がよく出て面白かったです。配偶者の方にも最後舞台に上がってきていただいて、そこでやり取りがあったんですけど、野上さんって「真面目、堅物人間」。
野上:考えすぎちゃうんですよね。
村本:考えすぎていて。でもそれで僕はいいと思うんですよ。「がんで記者」という話をするのではなく、「堅物記者・野上が喋る」。そんな感じでしたね。コメディアンに化けるでもなく、僕が一番期待していた通りでしたね。素で喋ってほしい。ひねくれ者なんだなって、それが面白いし素敵ですよね。
野上:ほんとね、鋭いですね。
村本:野上さん、分かりやすいですよ、ハハハ。あれってチケット代が4000円なんです。普通のライブで3000円くらい。4000円で素人のスタンダップ・コメディーじゃないですか。それが即完したんですね。お客さんも聞く価値のある話を分かっていて、最後は「すごい話を聞いた」と。「可哀相と思ってください」でもなく、「面白いでしょう!」でもなく、ただ淡々とその人の語り口調でその人の話を皆が2時間半、飽きることなく聞いている。小さなパイプ椅子にずっと座って。腰も痛いでしょうに。お客さんが話を聞いて笑っている姿を見て、「やってよかったな」と思いましたね。
野上:舞台の雰囲気が温かかったですね。僕は他の人の話も本当に聞けてよかった。入場料の4千円は新聞1カ月分ですよ、だけど、どっちに価値があるだろうって本当に考えちゃいました。
村本:そんな。でも、一つひとつを記事にしてもらいたいと思う話ばかりでした。
――そもそも、村本さんがマイノリティに着目したきっかけは何ですか。
村本:マイノリティというのは頭に「その場においての」という言葉がつくんです。たとえば、僕は独り身で彼女もいません。でね、旅行する時に予約人数を入れようとすると、「2人」から始まるんですよ。一回「1人」に戻さないといけない。ちょっとした段差があるんです。これ「独身マイノリティ」です。皆、その場において色んな段差があると思うんです。
僕、中卒なんです。周りの人に話すと「そんなの関係ないって」とか言う人もいる。いや、こっちは悩んでなんかいないのに、急に何なんだって思う。独演会には色んな人が来てくれて、がんの人もいればゲイの人もいる。孤児院で育ったという子もいました。そのことを周りに話すと二言目には「あっ、そうなんだ……」「そういうの気にしないよ」と言われると。この反応や言葉がどこから来るのか僕は興味があります。野上さんもそんな経験ないですか?
野上:ありますね、感じますね。言葉で、それを活字にして表現して伝えるってなかなか難しいのと、それを集めて「じゃあ読者にどうしろっていう風に言えるのか」っていうのが、自分の中で答えが出しにくいかな。「そういうの言うのをやめよう」って言っても、たとえば、無言の「気にしないから」を飲み込むだけで、変わらないわけでしょう。だから難しいなぁっていうのは自分の中でありますね。
村本:そうした雰囲気が社会の空気の中にある……。
――村本さんのSNSはよく炎上していますが、傷ついたりはしないですか。
村本:「もうちょっと勉強しておけばよかったな」と思うことはありますよ。昨日も沖縄の話をして「もうちょっと勉強しておけばよかったな」と思って、それをプロデューサーに言ったら「いやいや、ツイッターの反応はすごいよかったですよ」って言うから久々にエゴサーチしたんです。そうしたらめちゃくちゃ悪口書いてあってびっくりして思わず携帯落としましたよ。「どこがよかってん!」「悪口いっぱいありますよ」と(笑)。でも、意外と凄まじく自分に自信があるんですよね。だから「分かってねぇなあ」と。
僕は喋りがすごいんですよ。たとえば「この喋りがなくなれば次はどうなるんだろう」と。鳥だとしたら羽をもいだ次がどうなるのかが知りたい。次の進化、第2ステージなんですよ。それが楽しい。同じ形態、場所にいるのではなく、自分が次にいくところを見たいんですね。
野上:縛ると本当にやりたいこと、表現したいことしかしなくなるから。
村本:そう。
(構成/AERA dot.編集部・森下香枝、福井しほ)
(出所:AERA.dot、2018年9月28日掲載)
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