ウーマン・村本大輔「沖縄メディア、朝日は僕が喋った言葉を武器にするので…」難治ガン記者と対談【後編】

AERA dot.で朝日新聞政治部の記者、野上祐さん(46)が連載する『書かずに死ねるか――「難治がん」と闘う記者』というコラムがお笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔さん(37)の目に留まり、番組や舞台に出演した野上さん。お笑い界の異端児と難治がん記者――。村本さんの「最後にペンを握って何を書くんですか?」という直球の質問に野上さんの答えは?

※中編よりつづく

*  *  *
――政治ネタはしたくない、という芸人さんも多いのではないでしょうか。

村本:ある芸人が「政治ネタは言ってもウケない」と話していたことがあります。でも、「思ってもないことを言ってもウケへんわ」と思う。コラムの野上さんの話じゃないけど、芸人が「桜を見る会」に行ってて、政治を腐せるわけがないですよね。それが正しくても正しくなくても、近寄ってはいけないと思う。

野上:自分は政治記者だなと意識したのは、がんになった時です。知り合いの政治家が病院選択の手助けを申し出てくれたけれど、断りました。ここで借りを作ってしまうと、復帰した時に政治記者としてやっていけないと思った。自分が単に生物としてではなく、記者として生き延びようとしたことはよかったなと思っています。

村本:是枝(裕和)監督のやつみたいですね。権力とは少し距離を置くという。

野上:私ならば、感謝の気持ちが絶対に残ってしまうでしょう。でね、その後に相手を批判する記事を書くことがあった。もし借りを作っていたら書けなかったかなとも思うし、その資格はない記者だと思っていたかもしれない。

――海外では風刺画で政治を揶揄したり、自由ですよね。スタンダップ・コメディーもその一つです。

村本:日本のテレビは少しでも右か左に寄ると、取り合ってくれなくなる。タレントに触れられ慣れてないから、敏感なんです。野上さんに聞きたい。メディアはペンで監視役を示さないといけないわけじゃないですか。

野上:朝日新聞社が同じ意見かは分かりませんが、僕はその政治家が「正しい、正しくない」とは別に、距離はとらなければいけないし、全ての政治家は権力だと思っています。「安倍政権がどう」「野党がどう」ではなく、どこの応援団にもならないようにと思っています。

村本:実際、新聞は応援団なのですか?

野上:記者によっては、「この政治家と考え方が近い」というのはもちろんあります。でも、究極のところはわからないですよね。「どうして朝日新聞がこんなことを」と言われることもあります。もっと突っ込まないと、上滑りになって、そのうち見捨てられてしまう気もする。

村本:朝日新聞でもAERA dot.でも、それこそ琉球新報や沖縄タイムスでも同じですが、僕が喋った言葉が「メディアのフィルターを通した言葉」としてパズルが並び替えられている気がする。そしてメディアはそれを武器にする気がするんですね。僕はそんなつもりで喋っていないのに。カメラも被災地を悲しく映したい時は年寄りや子どもに向かうでしょう。

お笑い芸人にもそういうところがあるから、理解はできるんです。悲しかったということを伝えたい時、本当は違うかもしれないけど「涙を浮かべてて」と話す。もちろん最終目的は「笑い」ですよ。大衆が一丸となって笑っているのは怖い時もあります。新聞だって、皆を一丸にして、時には政局を変える。そんな時、記者の人はどういう目で言葉と向き合うんですか。

野上:僕は直接的に動かそうと思って書いてはいけないと思っています。自分の理想はあるから「こうあるべきだ」とは思いますけど。以前、コラムにも書きましたが、書いた後、「届いてくれたらいいな」と祈るくらいの気持ちです。誰か人の意見を借り、言葉を使って書く記事も中にはあるでしょう。たとえばこの前の「THE MANZAI」の後、村本さんのところに相当取材のお願いがいったでしょう。

村本:こないだも、東京医大の裏口の取材が入ってきたけど、さすがにそれは話すことが何もない。医大でもないし、女子でもないし、中卒だし、どれも当てはまっていないので、それはお断りしたんですけど。

野上:ある記者が「実は村本さんにお願いして紙面に出てもらいたい」というのを聞いたことがあります。要するに、いいころ合いに「村本さん」という存在がポンと登場したみたいな感じに去年、なりました。でも、僕の思っている村本さんは、そういう風に使われるのって絶対的に嫌だろうとすごく感じていたんです。たぶん、逆にひっくり返したいと思っているだろうな、と。そう思っていたら、番組で1回やりましたよね。

村本:「THE MANZAI」の後に、たまたま僕の番組(土曜The NIGHT)が終わるってなったから、ツイッターで急きょ、「終わることになりました。詳しい理由は話せません。生放送で言うかもしれません、あっこれも削除します」「本当の話を知りたい方はAbemaのスタジオに来てください」って書いた。そうしたら、新聞社が何社か来て「やっぱり官邸からの圧力ですか?」みたいなことを言うわけです。「生放送で言うんで」って言うと、「分かりました!」と。で、「留学に行くから辞めます!」と言うと「本当は?」「そんなわけないですよね?」とかって皆が言うわけです。

野上:ちょっとずつ混ぜ返していかないと、いいように役割を与えられて固定されるようになるんですよね。

――村本さんは表現者として「自分は自分でやりたい」というスタンスでしょうか。

村本:何か、産地を書き換えられているような気がするんですよね。ツイッターで琉球新報のことを書こうと思ったこともあるんですけど、書いたら書いたで琉球新報と逆のやつに使われるじゃないですか。「ああぁ、それやったらこんなインタビュー受けんかったらよかった!」みたいな。

野上:結局そこにいってしまうんですよね。沖縄の県民大会の時の出来事ですね。翁長さんへの強いご興味ですね。

村本:翁長さんもだし、野上さんもですね。僕もスタンダップ・コメディーをしながら死んでいきたいです。僕の親父は無口だけど、仕事の話になるとわーっと話す。仕事と生きることが一緒になっている。それは翁長さんも野上さんも同じです。翁長さんは「夢半ばで」とよく言われていますが、走りながら天に行ったように見えて僕は美しいと思っています。野上さんも今も書き続けている。それはどこに向かって、なぜ書き続けるんですか。

野上:緊急入院する時、どうしてお腹を抱えながらも配偶者にパソコンを持って行くように頼んでいるのか、よくわからなくなります。でも、書くために生きていると思っているんでしょうね。そんなにかっこいい話ではないけれど。

村本:みんな、「野上さんのほうが先に死ぬ」みたいなことを前提で喋りますけど、ここにいる誰が交通事故に遭うか分からない。

野上:この前ちょっと書こうと思っていたんです。前にご一緒した平松茂生さん(腎臓がん)に「がん患者だけなぜ、事故に遭わない前提なんだ」と村本さんが言っていたのですが、全くその通りだと笑いましたね。

村本:そうそうそう。

野上:みな、お見舞いに来て心配してくれるけど、自分が病気だって言われた時も寝耳に水みたいなもんだったから「事故とかあるし、みんなだって帰りは分かんないぜ。だから大事に生きたほうがいいよ」って言っていました。でも、途中から余計に可哀相に思われているような気がしたので、言うのをやめた。本人も気付く時は気付くし、気付かないなら気付かないでいいや、と。

村本:確かになぁ。野上さんはよく砂時計の話をされるじゃないですか。平松さんも「砂時計が見える」って。たとえば、余命1カ月だとしたら、1カ月の砂時計。途中で詰まったりして、出てこず、長生きする、みたいな。最後、じゃあ、最後にペンを握って書くとしたら、何を書くんですか。

野上:それが、最後に何を書くかって、何なんだろうなぁ。分かんないんだけど、最後に倒れて書けなくなっちゃった時に、載せられるものを何か用意しておかなければいけないんだろうな、とは思っているんです。死んだ時に「これ載せて最後にしてください」っていうやつを何か書いておかなければいけないんだろうな、とは思っていて、試みたことはある。

 だけど、結局自分の心がころころころころ変わるから、まだ書ききれていない感じなんですね。だから何を書くのかなぁ。ありがとうって書くのか、ふざけるなって書くのか。どっちなのかなあ。世の中に対して「もうちょっとしっかりしろよ」と書くのか「お世話になった方ありがとう、配偶者ありがとう」と書くのか。どっちかだろうなと思いますけどね。それをどういう材料で書くのかはちょっと分かんないけど。村本さんは最後、どんなネタを?

村本:それは本当に考えるんですよ。いつも「死ぬ前に何を喋るか」と思って舞台に立っているんです。特に独演会なんかは、最後のあれじゃないと伝わらない。

 たとえば、赤ちゃんはおねしょをしたり、うんこをしたり、食べ物を散らかしたり、泣いたりするでしょう。でも、「赤ちゃんやからしょうがない」って言うじゃないですか。さらに高いところから見たら、人間が殺人を起こして、戦争をすることも「人間やからしょうがない」ですむと思うんですね。赤ちゃんと何ら変わらない例えをされる。「さすが人間やからしょうがない」「赤ちゃんやからしょうがない」と。せっかく人間に生まれているんで、人間であるということを笑い飛ばすというか。人間って面白く、「自分のことじゃない」と思って大爆笑する生き物なので、そこを「笑い」にできたら気持ちいいかなと思う。「人間のことをすっごいバカにしているのに、人間が拍手をして笑う」という人間の様を表現したいと思っています。

野上:それは村本さんがゼロからイメージされているんですか?

村本:ゼロからですね。

野上:すごいね。

村本:ゼロからです。僕、レニー・ブルースというコメディアンが好きで、彼の言葉に「I’m not a comedian. I’m Lenny Bruce.」という言葉があります。僕も「I’m not a comedian. I’m Daisuke Muramoto.」っていうスタンスでいこうと。村本大輔という人間がたまたま「よしもと」という舞台で喋っているだけ。野上さんも、そうじゃないですか。「朝日だから」「がんだから」じゃなく。

野上:そうかもしれない。だから、自分をどれだけ出せるかということをやっていかなければと思っています。何だか真面目に喋りすぎたかな。

村本:僕、本を読まないけど、こういう話を聞くとずっと心に残る。「あえて言う」という言い方をすると、「野上さんががんになってくれてよかった」と思うんです。

野上:村本さんにとって?

村本:うん。気付きがいっぱい与えられて、僕もいつかそうなった時に思い出す気がする。

野上:がんになる確率は2分の1で、人間は何かしらで必ず死ぬからね。すい臓がんはちょっと面倒くさいだけで。

村本:すい臓がんは面倒くさいだけ? ハハハ、かっこいいな。
(構成/AERA dot.編集部・森下香枝、福井しほ)

(出所:AERA.dot、2018年9月30日掲載)

対談するウーマンラッシュアワーの村本大輔さん(左)と野上祐さん(撮影/写真部 小山幸佑)
ウーマンラッシュアワー 村本大輔さん(撮影/写真部 小山幸佑)
野上さん(撮影/写真部 小山幸佑)

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Posted by nogamiyu